【連載】日本人の心はなぜ「層」を持つのか ― 重なり合う信仰・歴史・精神構造を読み解く ― 第3回 祖霊の世界から「神」の世界へ ― 神話と国家の層 これまで見てきたように、日本人の精神の最も深いところには、自然と祖霊とが連続した「縄文的な心」の層があると考えられます。 そこでは世界は分断されず、いのちは形を変えながら場の中に留まり続けていました。 しかし歴史が進む中で、この基層の上に新しい層が重なっていきます。 それが、神話と国家形成に関わる心の層です。 ■ 祖霊と「神」は同じではない 縄文的な世界観における祖霊は、共同体と連続した存在でした。 死者は遠くへ去るのではなく、形を変えてこの世界に重なり続ける存在です。 それに対し、後に現れてくる「神」という観念は、やや異なる性質を持ちます。 神は、 物語の中で系譜を持ち 世界の秩序や起源を説明し 人間社会のあり方に根拠を与える 存在として語られます。 ここにはすでに、 自然や祖霊と共にある感覚から、世界を“語る”視点への移行が見られます。 神話は単なる物語ではなく、 世界を理解し、社会を正当化し、秩序を支える「枠組み」なのです。 ■ なぜ神話が必要になったのか 神話が整えられていく背景には、生活規模の変化があります。 小規模な共同体では、血縁や直接の関係が社会の基盤でした。 しかし集団が拡大し、異なる集団同士が関係を持つようになると、 誰が正統な指導者か なぜこの秩序に従うのか 我々はどこから来たのか といった問いに、共有できる物語が必要になります。 ここで神話は、 祖霊の世界を超えて、社会全体を束ねる原理 として働き始めます。 つまり「神」は、霊的存在であると同時に、 社会的・政治的秩序を支える観念でもあったのです。 ■ 自然信仰は消えたのではなく、包み込まれた ここで重要なのは、新しい層が現れても、古い層が消えたわけではないということです。 神話の世界が整えられ、祭祀が制度化され、権威が形を持っていく中でも、 山や森への畏れ 水や火への感謝 祖霊を身近に感じる感覚 といった縄文的な感覚は、人々の生活から消えることはありませんでした。 むしろそれらは、 神話の世界の中に取り込まれ、再編され、位置づけられていった と見る方が自然でしょう。 ここに、日本文化の大きな特徴があります。 新しい思想が古いものを否定して塗り替えるのではなく、 上に重なりながら下層を生かし続けるのです。 ■ 「国家の神」と「生活の霊」が同時にある社会 この層が形成されることで、日本人の精神の中には、 社会秩序を支える神話的な神 身近な自然や祖霊に重なる霊的感覚 という二つの世界が同時に存在するようになります。 これは矛盾ではなく、 異なる層のものが同時に働いている状態です。 国家的な祭祀が行われる一方で、 日々の生活の中では、田の神、山の神、祖先の気配が感じられる。 この二重性こそが、後の時代にも続く日本人の心の構造の原型になっていきます。 ■ 層が重なることで生まれる日本的な精神 この時代に現れたのは、単なる宗教の変化ではありません。 精神構造の次元が一段増えたのです。 縄文的な「場に溶ける感覚」の上に、 神話によって世界を理解し、秩序を見いだす層が重なった。 この重なりこそが、後の日本文化の柔軟性、包容性、そして曖昧さの源となります。 日本人が、 矛盾するように見えるものを同時に受け入れ 一つに決めきらずに共存させ 絶対的な排他に向かいにくい 傾向を持つ背景には、 この層状の精神構造があると考えられるのです。
修生会
住所 兵庫県姫路市白浜町甲2379
電話番号 079-245-0780
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